OKUNI 2011 (2011/11/18・12/3のイベント)

2011/11/28,12/3
『OKUNI 2011』

2011-11-2



2011年11月28日(月)東京、2011年12月3日(土)京都にて
『OKUNI 2011』の公演を行いました。

「2年前の感動をもう一度!」

そんな熱い声に応えての最後の公演は、
スペインから王立アカデミーのフラメンコ教授ホアキン・ルイス氏を
異人役として招聘しての舞台。

山本秀実・ホアキンの二人のアーティストの演技は、
熱く、切なく、力強く、繊細で妖艶。

OKUNIの傷心と葛藤と昇華が胸に響く舞台でした。



2011-11-3



「日本中に希望を与えたい!」

ということで、OKUNIが自分の道を見つけ出すというテーマになった
今回の公演。

帰路につく方々の表情から、
何かを得て帰られたのではないかと確信しています。


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典雅なフラメンコ

 奥ゆかしさという美意識に貫かれた舞台だった。
 山本秀実さん演じる阿国は、異文化を知る前、裸足で力強く日本舞踊を舞う。異文化の象徴となっている鮮やかなマントンとサパトスに出会ったときも、物怖じすることなく正面からフラメンコに向き合う。そのスレンダーな肢体には凛とした気高さが宿っていた。「かぶき踊り」で京の人々の口に上るようになっても軸を変えることなく、端正な美しさを保ち続けた、そんなしなやかな強さを持った阿国像が浮かんでくる。

 ホアキン・ルイス氏の踊りには温かな包容力があった。阿国のことを理解し、フラメンコの真髄を伝える度量と懐の深さを滲ませている。ルイス氏は、王立コンセルバトリオ・デ・ダンサの最上級クラスの主任教授も務めているという。そういった責任感や誠実さは、踊りのスタイルに現れてくるものなのだと感じた。阿国もまた、素直な心構えでフラメンコを学んでいく。導く側も導かれる側も、文化を異にする者同志が心を通わせるために共通して必要なものは互いを解ろうとする知性である。抑制された気品のあるパレハからそんなことが伝わってくる。

 フラメンコの鮮やかなテクニックを身に付けながらも、その情熱は慎ましく抑えられて表現される。だからこそ却って感じ取ることができるものがある。外界の眩しさが、日本家屋の長い軒と障子を通して、ほの明るい陰翳として映し出されるように、それが日本人の文化であり、感性だということを改めて認識する。

 フラメンコ音楽と邦楽との競演は一期一会の緊張感から放出されるエネルギーに満ちていた。フラメンコ奏者4人、邦楽奏者7人は左右に別れて位置している。初めは対峙するかのように別々の場面で演奏されるのだが、舞台が進むにつれ、徐々に距離を縮めていくように、ひとつの音楽の中に融合していく。フラメンコ・フルートはこれまでにも聴いたことがあったか、ここでは邦楽の横笛がそれに勝る役割を果たしていたのが印象深い。リズムも音階も超越し、自在に両者を行き来していた軽やかな響きが耳に残っている。伝統芸能の奥深さと無限の可能性を実感した。

 バイレの衣装には、西陣織や京友禅がふんだんに用いられていた。この優雅な模様と色彩には思わずため息が出たほどだ。オーソドックスな原色やパステルカラーの水玉のような、からっとした陽気な雰囲気とは違って、そのしっとりと湿り気ある質感は、身にまとう踊り手たちの動きをごく自然にしとやかなものに変えていく。それがまた趣のある優美なフラメンコにつながっていく。

 感動は、直情的なインパクトだけがもたらすものではない。魂が込められた職人技を、惜しみなく散りばめたような心遣いのぬくもりは、じんわりと後から効いてきたのだった。それは一筋の光となって行く先を照らし続けてくれる。質の良いものに触れるとはこういうことなのだと思う。

 真の文化交流がここにはあった。江戸の粋よりさらに歴史のある上方文化の洗練された典雅さを土台に持ち、そういったアートの奥深さを知り抜いているからこそ、フラメンコの魅力に畏れを抱きつつも、受け入れていく柔軟性がある。このような土壌に私たち日本人は生きているのだと誇りに思えた。

 歌舞伎の始祖と呼ばれる出雲阿国の生涯については諸説あるが、山本秀実さんは、自身のフラメンコ人生と重ね合わせることで、芯の強いひとりの女性像を創り上げていた。たたらの里では燃焼し切れない何かを抱えながら、都へ旅立ち、そこで花を咲かせた阿国のように、山本さんもまた、たおやかな京女であることに留まることなく、フラメンコに自身の生きる道を見出したのだろう。

 流される人生、自ら選択する人生、相反する生き方のようにみえるけれど、人は誰もが、自身の器に合った生き易い場所を追い求め、結果的にはそこに行き着くように出来ているのかも知れない。

      井口由美子 月刊パセオ2012年2月号より

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